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大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)1988号 判決

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し二〇〇万円およびこれに対する昭和四八年五月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

三  請求原因

1  原告は別紙一物件目録記載の建物(以下本件建物という。)につき増築工事をするため昭和四八年一月二六日都市計画法五三条一項の許可申請を大阪府知事に提出し、同年二月四日藤野工務店(経営者藤野忠義)に対し右工事を請け負わせた。同年三月一三日条件付で前記許可を受け、さらに同月二八日建築確認申請が受理されたが、同年四月六日右増築が建築基準法に抵触する旨の通知を受けた。しかし折からの建築資材の価額高騰のため建築確認を受けるための是正をしていては予算に支障を招き事実上建築は不可能となるので、後日の機会に違反部分を是正する旨申入れ、同年五月二〇日給水装置工事を除き工事を完了させてその引渡を受けた。本件建物は当初原告自身の居住を兼ねた書庫として使用する目的であつたが、工事途中使用目的を二階居住用、一階店舗用に変更した。

2  本件建物の増築部分は一階一七・三六平方メートル、二階一七・一六平方メートルであつて、建築基準法にいう建ぺい率に違反しているが、一階において七・三六平方メートル、二階において七・一六平方メートルの範囲で許容面積を上回つているにすぎない。

3  原告は同年五月一〇日ころ株式会社田上水道工業所(以下訴外会社という。)に対し本件建物についての給水装置工事の申込みおよび同工事施行一切を委任し、同会社代表取締役田上広美知(以下田上という。)は同月一五日ころ原告のために被告市水道局に対し給水装置工事の申込みをなした。同局給水課長西口常夫(以下西口という。)は、被告市建築指導課員奥野善雄、同山岡一雄(以下それぞれ奥野、山岡という。)両名に連絡し意見を求めたうえ、本件建物が建築基準法に違反する無確認建築物であるとして被告市建築部制定の違反建築に対する給水制限実施要綱(別紙二参照。以下実施要綱という。)に基づき右申込みの受理を拒絶した。

4  原告は、昭和四八年六月暫定的に隣の居住者寺川千津子(以下寺川という。)の専用配水管を分割してもらい私設の水道設備により本件建物の給水を受けることとなり、原告は園木忠男に本件建物を賃貸し、同年六月九日から園木らの家族四名が二階に居住し、一階をクリーニング取次店舗として現実に使用を開始して現在に至つている。

5  原告は被告市水道局に対しその後も再三に亘り給水装置工事を申込んでいたところ、昭和四九年一二月九日になつて受理され、昭和五〇年一二月四日同工事が完了した。このように被告市職員西口は昭和四八年五月二〇日から昭和四九年一二月九日までの間同職員奥野および山岡と相談のうえ、故意に給水装置工事の申込みを受理せず給水を停止した。また奥野および山岡は、本件建物の建築基準法違反の程度が極めて僅少であるにもかかわらず原告を悪人呼ばわりしたうえ、被告市において行政代執行により本件建物を取毀す旨発言して本件建物の取毀しを求めた。

6  なお実施要綱2(6)のうち「工事中止命令等が出されたものは、建築部から解除の連絡があるまで給水工事を延期する。」との部分は、水道給水をしないことが生命に影響を及ぼし生存権的保障を侵奪するから憲法二五条一項に違反し無効であり、これに基づく給水停止も無効である。被告市は正当理由に基づかず給水装置工事の申込みを拒絶したのであるから債務不履行の責任を負い、また前記被告市職員三名の行為は職権の濫用として不法行為が成立し、同市は使用者としてその責任を免れない。

7  原告は、以上の被告の水道法上の義務不履行と不法行為とに原因して次のとおりの損害を被つた。

(1) 本件建物の敷地価格は通常の上水道ある土地に比較して三万三〇〇〇円減価している。原告は訴外園木忠男に対し、昭和四八年五月二〇日から同四九年一二月九日まで二〇か月間のうち一九か月間に亘り本件建物が私設の水道設備であつたことから得べかりし家賃月額四万五〇〇〇円を四万円に、得べかりし敷金二七〇万円を一八〇万円にそれぞれ減額してこれを賃貸したため、その減収合計額は九九万五〇〇〇円となり、効用上の減価額一〇二万八〇〇〇円となつている。

(2) また、本件建物について右園木忠男夫婦と隣家寺川千津子との間に分水と給水その使用料をめぐつて紛争を招き、原告はこれに介入して解決した。このような事態は被告において当然予見されるところでありこれによる原告の精神的苦痛を慰謝するには一〇〇万円が相当である。

8  よつて、原告は被告に対し右損害金合計額のうち二〇〇万円およびこれに対する不法行為の日である昭和四八年五月二〇日から支払ずみまで民法所定の利率である年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  請求原因に対する認否および反論

1(一)  請求原因1の事実のうち本件建物につき昭和四八年五月二〇日給水装置工事を除き増築工事が完了したことは認める。

(二)  同2の事実のうち本件建物が建築基準法違反の物件であることは認める。

(三)  同3の事実のうち被告市水道局は昭和四八年五月一五日ころ原告の代理人訴外会社から給水装置工事の申込みを受けたことは否認する。

(四)  同5の事実のうち昭和四九年一二月九日原告からの給水装置工事の申込みを受付け、これを受理したことならびに昭和五〇年一二月四日同工事が完了したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(五)  同6同8は争い、同7の事実は否認する。

2(一)  原告が本件建物につき初めて被告市に対し給水装置工事申込書を提出したのは昭和四九年一二月九日である。被告市は右申込書の付属書類である住民票により本件建物に入居者が存在することを知り得たので直ちに右申込書を受理し、給水装置工事をなすことを許容した。被告市は、原告の問合せに対し、建築確認書を具備しない給水装置工事の申込みは受理しない旨指導的に回答したにすぎない。

従つて被告市職員は職権を濫用したものではなく、また同職員の措置は違憲でもない。

第三  証拠(省略)

(別紙一) 物件目録

豊中市庄内幸町二丁目一〇六番地の一

家屋番号 一〇六番一

木造瓦葺二階建店舗共同住宅

床面積 一階 九七・〇一平方メートル

二階 九七・八四平方メートル

うち増築部分の床面積

一階 一七・三六平方メートル

二階 一七・一六平方メートル

(別紙二) 違法建築に対する給水制限実施要綱(抜萃)

2 実施要綱

(1) 給水工事の申込みがあつたとき、建築確認通知書の提示を求める。

(2) 同一敷地内に多数の戸数があつて、申込みの建物を確認しがたいときは、建物の配置図の提出を求める。

(3) 工事申込書と照合の終つた確認通知書は、確認の年月日、番号を転記して給水工事申込済の印を押印の上返却する。

(4) 臨時用についても(1)―(3)に準じて扱う。

但し、整地、道路工事等の飯場で臨時的なものは、現場確認の上期限を附して受理する。

(5) 臨時用に用途を変更するものについても(1)―(4)に準じて扱う。

(6) 建築確認のないものは、大阪府建築部(職員が常駐する予定)に速報する。建築部職員が直ちに現地調査を行ない指導又は工事中止命令等が出される。工事中止命令等が出されたものは、建築部から解除の連絡があるまで給水工事を延期する。

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